シングルマザーの長女として生まれ、生後数年間は祖母家で育ったeve。
女手一つで子供を養う事は容易ではない。
仕事で忙しかった母と過ごす時間が僅かな環境で日々寂しい気持ちもあったが、彼女の孤独を支えたのは祖母から与えられた色鉛筆とノートだった。時には絵を描く事に夢中になり過ぎて、キャンバスを飛び出す事も。
感情と感覚の赴くままにペンを走らせる事が好きだった。
「床や壁に描いてしまい叱られる事もありました。笑」とeveは語る。
物心がつく頃には母元に戻り、母子生活が始まる。
母を含め、タトゥーを持つ親族の間で育った幼少期。タトゥーとの接点、出会いというよりは、自分の生活の一部としてすでにそこにあったもので、気づいたら日常的に自然と触れていた感じ。
「色とりどり、様々なデザインのタトゥーを見つめて、綺麗だな、かっこいいなと、子供ながらに強い憧れを抱いたのを覚えています。」
当然子供なのでタトゥーは入れられない。そうなるとやることは一つ。ペンで自分の足や腕に沢山絵を描く事だ。
「画用紙やノートではなく、肌をキャンバスとして描いた絵は、いつもと違って新鮮に見えた。独特の存在感として記憶に残っています。」
それ以降もeveは絵を描き続け、小学生になってからは特にアニメのキャラクターを描くのが好きで、外で遊ぶよりも絵を描いてるような子供だったという。
「物静かではあったけど、感情は表に出やすい子供だったかな。」とeve。
時は流れ、中学生になってしばらくした頃どこからか聞いた
"墨汁でタトゥー入れれるらしい。"
という噂。
eveにとっては試さない選択肢はなかった。考えるより先に情熱が勝ってしまったのだ。
「友人が先にやってて、画鋲を使って彫ったみたいで。あんまりよくインクが定着していなかったので、対策として縫い針を割り箸に固定して彫りました。」と、淡々とした表情で語ってくれた。また、
「若気のいたりだったけど、感染症等、衛生的観点からとても危険なので絶対に真似しないで欲しい。」と続けた。
手足にイタズラ彫りが増えていく一方で、漠然とではあるが彫師の道を意識するようになっていった。
それでも、
"自分が本当になりたいもの、やりたい事は何なのか。"
高校を卒業した後も、しばらくはアルバイトをしながら自分探しを続けていた。
そういった経験を経て見えてきたものがやはりタトゥーだった。
「今振り返ると少し遠回りはしたけど、孤独だった幼少期から本質は何も変わってない。描く事で、表現する。表現し続ける事で私は私であると自覚できる。」
TATTOO STUDIO Ray'sの門を叩き、師匠であるDanielから教わった事ー。
「ボス(Daniel)は私にとって初めて尊敬できると思った人。彫師としての私を語る上で決して切り離せない、とても大きな存在です。」
彫師として一人前になるためには、技術的な面は勿論、それのみならず、高い人間性も求められる。
アシスタント時代は、当然ながら楽しい事ばかりではなかった。「時には叱咤され、自分の気の及ばない事で悔し涙を流した事もあります。今ではそういう経験の一つ一つが、自分が彫師として成長するための糧になったと思います。」
Ray'sのアーティストとしてー。
「これまで学んで来た事、師匠から彫師として育てて頂いた事への恩義を忘れず、これからもアーティストとして独自の世界観を広げていきたい。」
eveの表現する世界観ー。
eveといえば太めのラインに補色(コントラストの強い配色)をメインとして、ポップでコミカルでありながら、どこか毒の効いたテイストのデザインを得意とする、Ray'sでも一際異彩を放つ作風だ。
「カラーは配色を考えるのが一番楽しい。」と語る。
勿論オールジャンルを卒なく熟すスキルも持ち合わせている。今後更に期待のアーティストの一人だ。